AIを活用した越境ECサイトの改善施策

公開日:2025年07月11日

更新日:2025年07月11日

AIを活用した越境ECサイトの改善施策

こんにちは!世界へボカン株式会社 代表の徳田です。
これまで18年間で500社以上の越境EC・海外マーケティング支援をしてきており、著書『越境EC打ち手大全』をはじめ、YouTubeでも海外マーケティング視点の情報を発信しております。

これまで、越境ECで欠かせないCRMや決済について記事を執筆させていただきました。

・自社越境ECで売り上げアップにつながる決済戦略・最適解とは?
・越境EC×CRM最前線|“買いたい”を引き出す階段設計とLTV最大化戦略

今回は、現場の第一線で支援してきた立場から、「AIをどう活かせば成果につながるのか」そして「どう使うべきでないか」を実例を交えてご紹介します!

ECカートの持つAI機能を活用する

⑴ Sidekickを活用して分析をする

越境ECに最も適したカートの一つであるShopifyは2025年4月にAIアシスタントであるSidekick(※1)を発表しました。以下のようなリリース文(※2)で Sidekickの特徴が説明されており、分析から、具体的な改善策の掲示、サイトの改修までを行えるようになりました。

Sidekickを活用して分析をする

  • 高度な推論機能
    基本的な質問への回答にとどまらず、ビジネス課題の根本原因を特定し、予防策と実行可能なマルチステップソリューションを提案できるようになりました。たとえば、売上が低下した場合に、在庫状況、マーケティング施策、顧客行動パターンを分析し、原因を特定して具体的な改善策を提示します。

  • 進化した技術基盤
  • マルチソース分析:売上データ、在庫情報、顧客プロフィール等を同時に分析し、包括的なインサイトを提供。

  • セグメンテーション機能の強化
    新たな構文の導入により、より精緻な顧客分類が可能となり、ターゲット毎に高精度な施策実行を支援します。

    つまり、Sidekickに課題を共有し、質問することでShopify内のアクセスデータや顧客データを分析をしてくれて、次の打ち手まで考えてくれるということです。これまでShopifyアナリティクスにアクセスし、データを見たり、わざわざデータをエクスポートして分析していましたが、今はSideKickと会話をしながら、改善点を見つけています。

それでは、Sidekickでどのようなデータが抽出できるかを見てみましょう!例えば、「5月の売上データで日本とそれ以外の国の売上を教えて!」とSidekickに伝えると裏で以下のような依頼をしてくれます。

Sidekickのデータ抽出

国別の売上データが集計されて、どの国の売上が最も高いかを把握することが可能です。国別の成約率も出して欲しいと依頼すると国別のCVRも出してくれます。

Sidekickの回答

ここでアクセスはあるものの売上が低い国を見つけ、その国のユーザーの成約率や客単価が低い理由について深堀する等して、改善を行っていきます。

「Topページから商品詳細ページへの遷移率、カートへの投入率を確認して!」と聞くと以下のような回答が返ってきました。

Sidekickの回答

私が確認したデータでは、商品ページへの遷移率は19.8%と基準値の25%をやや下回る程度でしたが、その後のカート追加率3.6%(基準値5〜10%)と比べると低くいと判断されました。そこで、まずはボトルネックとなっている商品詳細ページのコンテンツを充実させたり、サイズガイドの改善、レビュー機能の強化をするようSidekickから促されました。

Sidekickを活用して分析した結果

このようにSidekickと対話をしながら、越境ECサイトの改善点を一瞬で見つけることができるようになります。多くの担当者様が、ついつい自分たちがやれる、やりたい施策を優先してしまいがちです。

ボトルネックになっており、CVRの改善余地がある箇所に優先的に取り組むことが、継続的な売上成長のカギになります。

時間もお金も人的リソースも限られている中、何処に自社のリソースを投下するべきかをSidekickと対話しながら進めることは大きな進歩と言えるでしょう。

⑵ サイトの改修方法もSidekickが教えてくれる

サイトの改修方法についてもSidekickに聞けば教えてくれます。例えば、Shopifyサイトでリダイレクト設定方法が分からない場合、以下のようにSidekickで質問すると、どのように管理画面から設定をすれば良いか教えてくれます。

これでShopifyサイトの設定方法が分からずに迷うことはありません。さらにその人が調べたことに関連するトピックもサジェストしてくれます。

例えば、SidekickにShopifyサイトのリダイレクト方法を教えてと伝えると以下のような回答が表示されます。指示に従ってボタンを押していくことで設定を行うことが可能になります。

サイトの改修方法もSidekickが教えてくれる

⑶ サイトの改修もSidekickにお任せ

新しくSummer ‘25 Editionで発表されたShopifyのテーマHORIZONでは、Sidekickに依頼することで新しくセクションを追加してもらうことも可能です。例えば「Topページにブログ一覧への導線を作成して」と依頼すると以下のようにSidekickがコードを書いて、セクションを生成してくれます。

サイトの改修もSidekickにお任せ

このようにSidekickを使用することで、分析から操作の相談、テーマの改修、追加までを行うことが可能になりました。

私たちは、施策の優先順位を成果の大小と実装の難易度の4象限にマッピングしておりますが、Sidekickの出現によって実装難易度の高い施策が減り、よりA象限の施策が増えたと考えています。

サイトの改修もSidekickにお任せ

⑷ Shopify以外のECカートにおける、AIを駆使した検索機能のパーソナライズ化と顧客対応

Shopify以外にも、オープンソース型やエンタープライズ向けのECカートにおいて、AIを活用した検索機能や顧客対応が進化しています。ここでは、特に「Magento(Adobe Commerce)」と「CS-Cart」の機能を紹介します。

Magento(Adobe Commerce):検索体験のパーソナライズ最適化

Magento(Adobe Commerce)は、AIを駆使して顧客の購買行動をベースに検索結果をパーソナライズし、最適な検索結果を表示することによって顧客体験を最適化致します。

サイトの商品の人気度や最近の販売傾向によっても検索結果を最適化することができる他、それぞれの結果のプレビューを簡単に確認することが可能です。

それぞれのルールに沿った検索結果を表示させるだけでなく、担当者の移行に沿って並び順を手動で調整することもできます。

顧客の検索体験に関するデータを確認することができるパフォーマンスワークスペースもあり、ユニーク検索数、コンバージョン率、ゼロ件の結果などの人気のある結果などを把握することができるようになります。

Adobe Commerceの機能 パーソナライズされたコマース体験

例えば、パフォーマンスワークスペースで、よく検索されている検索項目なのにカテゴリとして切り出されていない情報を発見したとします。

この検索項目を新たなカテゴリとしてサイトに追加したり、ナビゲーションに表示したりすることで海外SEOやユーザビリティの向上に役立てることも可能です。

CS-Cart:外部連携によるAIパーソナライズとチャット対応

CS-Cartも、外部サービスとの連携によりAIを活用したレコメンドエンジンを導入可能です。外部サービス連携で対応しているほか、ChatGPT APIを用いた会話型チャットボット連携ができる等、AIがさまざまなシーンで使用されています。

AIでイメージや動画、音声を生成できる

⑴ 商品ページのイメージ、Instagramのリール動画を作成する

AIを活用することで画像や動画を作成することも可能です。モデルを起用して撮影した場合、莫大なコストがかかる着用イメージ、着用動画もCreati(※3)を使用すればわずかなコストで生成可能になります。

Creatiにアクセスし、モデルのイメージと商品イメージ、背景イメージを組み合わせるとモデルが着用したイメージを生成してくれます。

AIでイメージや動画、音声を生成

出典:Creati AI

モデルを起用して撮影を行うとなるとコストがかかり過ぎてしまい、SNSや商品詳細ページのイメージを用意するのが困難です。

Shopifyの分析(※4)によると、商品画像が「商品単体」のときよりも「モデルが着用している写真」がある場合の方が購入率が2.5倍高くなる傾向があると言われておりますので、ぜひ着用画像が不足している方は活用してみてください。

⑵ ナレーションも生成できる

音声もAIで生成することが可能です。英文を入力すると男性、女性、声の高さ、低さを選ぶことができ、英文のナレーションも作ることができます。このツールを使うことで自社にネイティブスピーカーがいなかったとしても英語で商品の説明や魅力を伝えることが可能です。

音読さん(※5)、elevenlabs(※6)といったテキストを読み上げてくれる音声AIプラットフォームもあり、自身が用意した英文テキストを男性、女性のナレーションで読み上げてもらえます。

ナレーションも生成

出典:elevenlabs

私たちは、日本百貨店(※7)という47都道府県のご当地食品を取り扱うお店の海外マーケティング支援をさせていただいております。越境ECでご当地の食品を購入してもらうことが最終ゴールなのですが、食品の場合、一度も口にしたことないものを越境ECで購入するのはハードルが高いものです。

そこで、まずは店頭に訪れたお客様に手に取っていただき、口にしてもらい、気に入っていただいた方をオンラインに引き上げて越境EC販売に繋げるOMO施策を実施していくことになりました。

当初、店頭に足を運ぶと、インバウンドのお客様が訪れているものの、英語のPOPが限られており、商品の特徴を十分に把握することができていませんでした。

この対策として私たちは、ご当地の商品を説明するコンテンツをインバウンドの方向けの店頭接客施策の一環としてデジタルサイネージ用の動画として活用するご提案をしました。

POPや動画

コンテンツ制作時のAI活用の注意点

⑴ AIでコンテンツを制作する際の注意点

サイト改善を大きく分けるとサイトに新しい機能を追加する施策と新たなコンテンツを追加する施策があります。後者のコンテンツ施策は海外のお客様の理解度を深め、購買意欲を高めるのに重要な施策です。

御社が支援会社だったときに、ここでAIを誤った形で使用すると事実とは異なる情報を越境ECサイトに掲載することになってしまい、とても危険です。

コンテンツ制作のフローを分解すると、
1.調査・データ分析
2.企画立案
3.アウトライン作成
4.クライアント確認
5.執筆
6.クライアント確認
7.コンテンツ投稿
とある中で

調査・データ分析、企画立案をする際にAIを活用するのは良いですが、執筆時にAIを使用すると危険が伴う場合があります。

何故なら、AIに執筆してもらった場合、事実とは異なる情報をしれっと書いてくることがあるからです。このときにファクトチェックのステップを飛ばしてしまうと、誤った情報を発信することになってしまい、企業の信頼を失う可能性があります。

AIでコンテンツを制作する際の注意点

特に日本の伝統工芸品等の特殊な商材の情報については日本語でもオンラインにも情報がないことが多く、生成AIが不確かな情報を執筆する可能性が高まります。

ブランド毀損を防ぐためにも有識者へのファクトチェックやクライアントとの認識確認MTGを必ず挟むようにしましょう。

⑵ AIで翻訳をする際の注意点

AIの翻訳の精度も日々上がっており、ChatGPTで翻訳した文章も文脈的に問題なくなってきました。しかし、自社越境ECサイトの翻訳をすべてAIだけで完結してしまうのは注意が必要です。

私たちは翻訳の精度を6つのレベル(※8)に分けており、ChatGPT等のAIによる翻訳をレベル3としております。翻訳のレベルが3未満の場合、ネイティブにとって違和感を覚えるモノになります。

すべてのページをAIで翻訳したとしても、Top、About Usページについてはネイティブによるコピーライティングを入れ、ポリシーページ、売れ筋TOP10の商品に関しては、ネイティブチェック、校正を入れるように推奨しております。

AIで翻訳をする際の注意点

データをChatGPTに取り込み改善点の提案

自社サイトと競合データをExcelで出力し、ChatGPTに読み込ませればSWOT分析や次の打ち手の立案をしてくれることも可能です。

イスラエル発の競合調査ツールSimilarWeb(※9)を活用し、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞それぞれのオンラインサイトのURLを入れて比較分析しました。それぞれのサイトのトラフィック、キーワードの獲得状況のデータをExcelに落とし、ChatGPTに読み込んで分析を依頼しました。

ChatGPTに読み込んで分析を依頼

すると、自社を朝日新聞としたときに現状の強み、弱み、機会、脅威を分析してもらい、競合との差異から考えられる優先度別の打ち手を提案してもらうことができます。

データをChatGPTに取り込み改善点の提案

今回は、公共性の高いメディアサイトでデータを分析しましたが、この取り組みを自社の越境ECサイトと競合サイトで実施すれば、売上を伸ばすために具体的なアクションを提案してもらうこともできます。

EC担当者様の多くは、

  1. データを分析する時間が取れない
  2. データを見て、施策を立案するのが難しい
  3. 施策の優先順位が決められない

といった悩みをお持ちですが、AIによる定量的な分析を基にした提案は、これらの悩みを払しょくしてくれるでしょう。

今回はSimilarWebを使用しましたが、他の競合調査ツールを用い、同じ指標、基準で比較することでChatGPTから提案を受けることが可能です。

AIを活用した海外サイト改善事例

パキスタンの大手ファッションブランドSapphireでの成功事例

Insider社の事例(※10)によると、パキスタンの大手ファッションブランドSapphireがホームページに「パーソナライズ化されたバナー」および「Smart Recommender」ウィジェット(AIレコメンド)を設置した他、商品詳細ページに「あなたにおすすめ」セクションを追加し、類似カテゴリのアイテムをレコメンドしました。

パキスタンの大手ファッションブランドSapphireでの成功事例

この施策によってCVR(成約率)は244%向上し、AOV(平均客単価)98%向上しました。特にAIによるリコメンデーションが成果に大きく貢献しました。

世界中から、様々な興味関心で訪れる越境ECサイトについてはAIを活用してレコメンドをすることでユーザーの傾向毎に最適なユーザー体験をもたらすことができるレコメンド機能は欠かせません。

まとめ

AIを使いこなせば、越境ECサイトを飛躍的に成長させることができますが、誤った使い方をしてしまうとブランド毀損に繋がってしまうこともあります。

AIを活用して楽をして良い部分と自社の優位性を作るために泥くさく人間が取り組まなければならない部分がありますので、本記事のTips、注意点を参考に取り組んでみて、自分なりのAIとの接し方を見つけてみてください。

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